偶発債務とは?M&Aの偶発債務の例とリスクを減らすための方策

M&Aの基礎

2022.1.59 months前

偶発債務とは?M&Aの偶発債務の例とリスクを減らすための方策

偶発債務は、「将来、発生する可能性があるが、発生するかどうかは未確定」の債務です。一例として、債務保証や係争中の損害賠償などが挙げられますが、貸借対照表に会社の負債としては記載されません。M&Aにおいては、譲渡価格にマイナスの影響を与えるもので、評価することが難しいものでもあります。

本記事では、偶発債務がどのようなものか、そしてそのリスクを減らすための方法を解説します。

偶発債務とは

偶発債務とは、「将来、債務が発生する可能性があるのだが、発生するかどうかは現時点でははっきりしない債務」のことです。その債務が発生するとき、または、発生するリスクが解消されたときまで、偶発債務は存在しつづけます。

似た用語に「簿外債務」がありますが、これは「貸借対照表上に記載されていない債務」を全て含むもので、偶発債務もその一種と言えます。簿外債務のうち「発生するかが不確実なもの」が偶発債務です。

M&Aにおける偶発債務の例

M&Aで問題になりやすい偶発債務にはどのようなものがあるのでしょうか。その一例を紹介します。

(1)債務保証・手形割引・裏書譲渡
売掛金や受取手形は貸借対照表に記載され、貸倒引当金が計上されているでしょう。しかし、債務保証をしていることは貸借対照表には表れません。また、受取手形を割り引いて現金化した場合や他社への支払いのために裏書譲渡した場合は、受取手形は減少しますが、振出人等が決済不能に陥った場合のリスクは残っています。

(2)係争中の損害賠償
裁判や調停などが進められている場合、その結果次第で損害賠償請求される可能性があります。

(3)デリバティブ取引等
輸出入をしている会社の場合、為替リスクを軽減するためにデリバティブ取引をしていることがあります。複雑なデリバティブ取引では、一定の条件を満たした場合には巨額の損失が発生する仕組みになっていることもあります。

偶発債務の会計上の扱い

前述の通り、偶発債務は簿外債務の一種であり、貸借対照表上には記載されません。「債務が発生するリスクがあるのなら、引当金を計上しておくべき」とも言えますが、引当金を計上するためには「発生可能性が高い」「金額が合理的に見積可能」などの条件があり、偶発債務はそれを満たしていないため、引当金を計上できないのです。

そこで、上場企業などでは、貸借対照表に「注記」として偶発債務があることを記載しています。ただ、経営上の重要性が乏しいものまでは書かなくてもよいため、すべての偶発債務が詳細に記載されているわけではありません。また、中小企業では、偶発債務までしっかりと書かれた決算書類を作成していないところがほとんどです。

しかし、M&Aでは、小さな偶発債務までしっかり知ったうえで、そもそも買収すべきか、いくらで買収すべきかを考えるべきでしょう。

M&Aでの偶発債務の扱いは?

では、偶発債務がある場合、M&Aにどのような影響を与えるのでしょうか?

一言で表現するなら、「偶発債務が多い会社=リスクを多く抱えている会社」であり、企業「価値を下げる要因」となるのです。M&Aではその会社が持つ債権・債務も引き継ぎますから、もし偶発債務が現実の債務になった場合、買収者が債務を支払う義務があるためです。

しかし問題は、偶発債務自体が「発生可能性はあるが、引当金を計上できるような予想できるものではない」という点です。それでも、M&Aでの企業価値をいくらにするかは計算しなければなりません。偶発債務を何らかの方法で「マイナスの資産」として評価し、企業価値に反映する必要があるのです。

その評価は誰にでもできるものではないため、M&Aを得意としている専門家の協力が不可欠でしょう。

M&Aで偶発債務のリスクを減らすには?

M&Aで偶発債務そのもののリスクを減らすことは不可能です。「将来、債務が発生する可能性がある」ことは事実であり、消すことはできません。結局は、M&Aの譲渡価格を調整して、偶発債務のリスク分を「売り手に負担してもらうこと」しかできません。では、どういった点に注意すればよいのでしょうか?

(1)買い手と売り手が協力してデューデリジェンスを行う
買い手が「安く買うために、あら捜しをする」、売り手が「高く売るために、情報を隠す」ではなく、「お互いに協力して、適正価格でトラブルが起きないM&Aを成立させる」意識をもって協力し合うことが重要です。

デューデリジェンスなどの際、売り手側に情報開示をしてもらい、適正な譲渡価格を算出できるようにしましょう。売り手側も、情報をひた隠しにしようとすると、かえって怪しまれてM&Aの成立にマイナスに働くことを理解しておきましょう。

(2)専門家のアドバイスを元に評価する
偶発債務を譲渡価格に反映するためには、何らかの評価をしなければなりません。しかし、前述の通り、その評価は簡単ではありません。専門家のアドバイスを元に、納得のいく評価をすることが大切です。

(3)偶発債務が現実化した場合のことを想定しておく
偶発債務は、実際に発生するかどうかはわかりません。しかし、発生した場合には負債を負担しなければなりません。その場合に、負債を支払うだけの資金力がなければ、倒産するリスクもあります。偶発債務が現実化した場合のことも想定し、経営上の大きな痛手になってしまわないかを確認しておきましょう。

また、偶発債務を譲渡価格に含めず、現実化した場合には売り手側がその債務を負担するように決めておく方法もあります。

おわりに

偶発債務は、実際に発生する債務かどうかはわかりません。しかし、発生確率は低いものの、発生した場合の会社への影響が非常に大きいものであるケースも少なくありません。だからこそ、どのようなものがあるのかを知っておきましょう。

しかし、偶発債務は、M&Aでも取り扱いが難しいもののひとつです。専門的な知識がないままに、なんとなく考えてしまうのはリスクが高いと言えます。税理士・会計士・M&A仲介業者などの専門家の力を借りて、適正な評価をすることをおすすめします。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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