創業者利益の仕組みとは?IPOやM&Aで得られる利益を解説

M&Aの基礎

2021.9.163 years前

創業者利益の仕組みとは?IPOやM&Aで得られる利益を解説

創業者利益とは、創業者が保有する株式を売却して得られるもので、事業を成功させた見返りとも言えるものです。しかし、大きな創業者利益を得るために株式売却できるのは、IPOとM&Aのときくらいしかありません。それぞれの仕組みと実現した創業者利益にかかる税金について解説します。

創業者利益とは

創業者利益とは、創業者が保有している株式を売却することで得られる利益です。出資した金額と売却時の時価との差額が創業者利益の額となり、事業を成長させられているほど、株式の評価額が上昇し、大きな金額となります。

創業者利益を目的に起業したという人は少ないと思われますが、大きなリスクを抱えて起業した創業者が事業を成功させたことに対する「見返り(リターン)」と言うこともできるでしょう。

創業者利益を得る方法

創業者利益は自社の株式を売却することで得られますが、IPO(新規株式公開)で株式を売り出したりM&Aで会社を売却したりするケースくらいです。

経営者だけが株主である場合は、一部の株式を自由に売却することは可能ですが、その一方で経営権を小さくしてしまうので、積極的に売却することはないでしょう。

事業会社やベンチャーキャピタルからの出資を受ける場合でも、自己保有の株式を売却するのではなく、第三者割当増資として新株発行で調達するのが一般的です。「創業者利益を確保して、他者から出資を受けたい」などという主張が認められるはずがありません。

経営者以外に事業会社やベンチャーキャピタルのような株主がいる場合は、株式を「譲渡制限株式」とするのが一般的で、経営者だけが自由に株式を売却することができません。創業者利益を得られるのは、他の株主が認めた場合だけと言ってもよいでしょう。

創業者利益を得られる仕組み

前述の通り、創業者利益を得るための方法は、「IPO」か「M&A」に限られます。それぞれの創業者利益が得られる仕組みを解説します。

IPOによる創業者利益

証券取引所への上場を果たした場合、上場時に創業者利益を得ることができます。上場と合わせて資金調達をする会社も多いですが、経営者などの大株主が株式を売却して株式の売却益を得ている場合があります。

ただ、上場は、経営者が創業者利益を得たり、ベンチャーキャピタルなどの株主が利益確定したりするためのものではありません。また、上場を機に経営者が引退するケースもほぼありませんから、大量に売却して経営権を小さくする意味はありません。

そのため、上場時に株式を売り出すとしても、それは持ち株の一部だけで、実現できる創業者利益はほんの一部です(もちろん、株価は大きく上昇していますが)。

上場時に、新株発行して資金調達するものを「公募」と言い、大株主が株式を売却することを「売り出し」と言います。公募や売り出しで取引される株価は「公開価格」で、上場した日につく「初値」ではありません。上場時に実現できる創業者利益は、「(公開価格-出資時の株価)×売り出し株式数」となります。

売り出しせずに保有し続けている株式は、上場後の時価で評価されます。株価が上昇すれば「未実現の創業者利益」も増えていきますが、株価への影響があるため、売却できるのは経営者から退陣した後になるでしょう。

IPOによる創業者利益は巨額になります。ただ、日本の上場企業は3,860社しかありません(2021年1月末時点)し、上場のための手続きが非常に大変で、多額のコストもかかります。それだけ上場のハードルが高いため、誰もが目指せる創業者利益ではありません。

M&Aによる創業者利益

一方、M&Aによる創業者利益の実現は、IPOと比べると実現しやすいと言えるでしょう。IPOよりも得られる創業者利益は少ないですが、現実的な手段です。

M&Aで創業者利益を得る場合は、全株式を譲渡して、会社の経営権ごと移転する方法が主流です。こちらも、経営権の一部を手放して創業者利益を手にするメリットはありません。

M&Aで株式譲渡する場合は、売却条件が決定して契約が成立すると、すぐに株式が現金化されます。創業者利益を「現金化して」実現するという意味では、IPOよりも簡単な方法と言えるでしょう。

その資金を得て、リタイア後の生活資金や、新たな事業を行うための原資とすることができます。

創業者利益にかかる税金

創業者利益には、「株式等の譲渡所得」として所得税や住民税がかかります。株式等の譲渡所得は「申告分離課税」に該当するため、累進課税の対象ではありません。課税対象となる所得の計算方法と税率は下記の通りです。

【譲渡所得の計算方法】
譲渡価額-必要経費(取得費+譲渡費用)
※取得費は設立時の出資額
※譲渡費用は売却を他社に依頼した場合の委託手数料でM&A仲介会社への支払額(売却にかかった部分のみ)などが該当

【税率】
・所得税:15.315%(復興特別所得税0.315%を含む)
・住民税:5%
・合計 :20.315%

【税額の計算例】
・株式の譲渡価格:5億円
・設立時の出資額:1,000万円(取得費)
・M&A仲介会社への報酬:2,500万円(譲渡費用)

5億円-(1,000万円+2,500万円)=4億6,500万円
4億6,500万円×20.315%=約9,500万円

多額の現金を手にすることができますが、その分だけ税額も大きくなります。申告分離課税であるため、翌年に確定申告が必要です。非上場株式ですから、上場株式のような特定口座を使った源泉徴収制度もありません。新たな事業等で投資する場合は、納税分だけは別に確保しておくようにしましょう。

おわりに

創業者利益は起業した事業を成長させることができた見返りです。成長させた分だけ大きな金額になりますが、経営者が好きなときに好きな分だけ創業者利益を実現することはできません。会社を大きく成長させて、上場やM&Aができるほどの魅力ある会社にできてこそ受け取れるものです。

ただ、IPOで創業者利益を得るのは非常にハードルが高いため、M&Aも同時に視野に入れておくことをおすすめします。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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