M&Aのアーンアウトの注意点、買い手・売り手のメリット・デメリット

M&Aの基礎

2021.12.242 years前

M&Aのアーンアウトの注意点、買い手・売り手のメリット・デメリット

アーンアウトは、M&Aの契約に盛り込まれる「一定条件を満たした場合に追加の支払うことを定める」規定です。買い手にとってはリスク回避ができ、売り手にとっては追加でお金が受け取れるというプラスの側面に目が行きがちですが、デメリットや注意すべき点もあります。メリット・デメリットを含めて、アーンアウトの概要を理解しておきましょう。

アーンアウト(Earn out)とは

「アーンアウト」は、M&Aの譲渡対価の決め方の一種です。「条件付き取得対価」とも呼ばれ、一定の条件を満たした場合に追加の支払いが発生する「出来高払い」のような方法とも言えます。

M&Aが一般的に行われるアメリカではよく使われているようですが、日本でアーンアウト条項がついたM&Aはほとんど見られません。しかし、状況によっては活用するメリットがあるため、知っておいても損はないでしょう。

アーンアウトの仕組み

アーンアウト条項が入っているM&Aでは、譲渡対価の支払いが2段階に分かれます。

1.基本の譲渡対価
M&Aが成立した時点で必ず支払われる対価

2.アーンアウト分の対価
M&A成立後一定期間の間に所定の条件を満たした場合に支払われる追加の対価で、条件を満たさなかった場合には支払われない

このように、条件を満たせなかった場合には「基本の譲渡対価のみ」、条件を満たした場合には「基本+アーンアウト分の譲渡対価」という2種類の譲渡対価が設定されます。

例えば、売り手側は2億円の価値があると考えていて、買い手が1億5,000万円の価値しかないと考え、譲渡対価に折り合いがつかない場合などに活用できます。売り手と買い手の知っている情報に差があり、売り手が主張するビジネスの可能性を買い手が納得できないのであれば、買収後の成果で対価が変えられるようにしておけるのです。

M&Aでアーンアウトを採用するメリット・デメリット

アーンアウト条項を利用してM&Aを実施するメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。また、デメリットはあるのでしょうか。

買い手のメリット・デメリット

【メリット】
1.高値で買収するリスクを回避できる
アーンアウト条項があることで、高額で買収して成果が出なかったといったリスクを減らすことができます。M&A成立時は基本の対価のみを、成果が出ればその分高い金額を支払うことで、成果に応じた対価で買収が可能です。

2.出費を分割できる
高額の出費となるM&Aで支払いを分割でき、資金調達がしやすくなります。

【デメリット】
1.条件設定が難しい
アーンアウトの条件をどのように決めるのかが非常に困難です。売上高・営業利益・EBITDA・純利益などを使うケースが多いですが、その指標と目標とする条件がM&Aの成果を的確に表しているものでなければなりません。

売り手のメリット・デメリット

【メリット】
1.M&Aで受け取れる対価が増える可能性がある
アーンアウトの条件がクリアされれば、追加で対価を受け取ることができます。

【デメリット】
1.アーンアウト分の対価を受け取れるかどうかが買い手側にかかっている
アーンアウトの条件を達成できるかは、M&A成立後に買い手が行うビジネスの成否にかかっています。また、条件達成できるかどうかが微妙なところであれば、買い手側が営業活動を控えて売上の増加を抑制したり、経費になる支出を前倒しで行って利益を圧縮したりすることもできます。

2.一度にまとまった金額を受け取れない
売り手側は、一度にまとまった金額を受け取ることができません。M&Aで売却した資金を何かに投資したいと考えていても、想定していたほどの金額をM&A成立時に受け取れない可能性があります。

M&Aでアーンアウトを採用するケース

M&Aでアーンアウト条項付きが採用されるケースとして、2つの例を紹介します。

1.買い手と売り手の考え方にギャップがある場合

買い手・売り手とも、M&Aの相手としては申し分ないと考えているにもかかわらず、譲渡対価でなかなか折り合いがつかないことがあります。譲渡対価の差は、事業の将来性や成長性についての認識の違いが大きいでしょう。前述の通り、そのビジネスについて、より多くの情報を持っている売り手が提示する将来性・成長性に、買い手が納得できないのです。

この場合、基本の譲渡対価を低めに設定し、売り手の主張通りの成果につながれば、アーンアウト分を追加で支払うようにすることができます。

2.現経営陣がM&A後も経営陣に残る場合

ファンドによる買収や買い手企業の傘下に入るようなM&Aの場合、現経営陣が社内に残るケースがあります。この場合は、アーンアウト条項が「売り手側のインセンティブ」になり、M&A後の成長に積極的に行動してくれるというメリットが享受できます。

また、現経営陣が、引継ぎなどの目的で、一時的に社内に残る「ロックアップ」が行われる場合も、インセンティブとしての効果が期待できます。

M&Aでアーンアウトをする際の注意点

アーンアウト条項の設定は簡単ではありません。注意すべき点を3つ紹介します。

1.適切な指標を適切な条件で設定するのが難しい

一般的に売上や利益などの財務指標で条件を設定しますが、「いくらになれば」「いつまでに」という細かい条件を適切に設定するのは困難です。こうすべきという答えはありませんが、期間は長くても数年程度にしておかないと、不測の市場環境変化に結果が左右されかねません。

2.会計上の数値は調整が可能

売り手側のデメリットにも挙げたことですが、会計上の数値は経営判断で調整が可能である点に注意しましょう。例えば、多額の設備投資で減価償却費を計上して営業利益を圧縮できるのであれば、減価償却費の影響を受けないEBITDAで条件を設定するなどの方法があります。

3.買い手が再売却する可能性を想定した内容にする

買い手がM&Aで入手した会社・事業を再売却した場合、アーンアウト条項をクリアしたかどうかが判断できなくなってしまいます。そうなると、売り手側が一方的に不利益を被ってしまいます。そこで、買い手が再売却する場合には、「対価を支払うことでアーンアウト条項を消滅させられる」という内容を追加するなどの対策が必要です。

おわりに

アーンアウトは、所定の条件を達成することで追加支払いをする条項です。M&Aの譲渡対価で折り合いがつかない場合などに活用することができる方法ですが、ただ最終契約にアーンアウト条項を入れればよいというものではありません。

アーンアウトをつけるべきか、どのような条件設定にするのかは、非常に難しい問題で慎重な判断が必要です。専門家の意見を参考にするなどして、本当に必要かから検討するようにしましょう。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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