株式移転の目的、株式交換との違いとは?メリットから手続きの流れまで解説

M&Aの基礎

2021.7.183 years前

株式移転の目的、株式交換との違いとは?メリットから手続きの流れまで解説

株式移転は、新しく会社を設立して、その新会社に既存会社の全株式を承継するM&A手法です。要件を満たせば、現金を使わずに持株会社化などの事業再編をすることができます。今回は、株式移転について、似た手法である株式交換との違いにも触れながら、メリット・デメリット・手続きの流れを解説します。

株式移転とは?

株式移転は、既存会社の全株式を新設した会社に移して、既存会社を新設会社の完全子会社化するものです。複数の既存会社が株式移転する場合は「共同株式移転」、1社で行う場合は「単独株式移転」と言います。

株式交換との違い

株式移転と似たスキームに「株式交換」があります。いずれも「全株式を譲渡して、完全親子会社の関係にする」という点は共通しているのですが、「親会社となる会社」に違いがあります。株式移転は「親会社となる会社を新設」しますが、株式交換での親会社は「既存会社」です。

株式移転の目的

株式移転では買収の対価を「新設会社の株式」で支払うことができるため、グループ再編や事業統合などの目的で活用されるケースが多いと言えます。

1.持株会社(ホールディングス)化
グループ企業を持株会社化することができます。グループ企業を統括する持株会社を作り、全グループ企業を完全子会社化することで、グループ全体の意思決定を管理することができます。

2.共同持株会社化
グループ企業ではない会社同士が、共同で持株会社を設立するケースもあります。同業の会社が規模の経済・範囲の経済を求めて事業統合したり、完全に同業ではないものの統合することでシナジー効果が期待して統合したりする場合です。

株式移転のメリット・デメリット

株式移転をする会社(買い手)にとってのメリット・デメリットには次のようなものが挙げられます。

買い手のメリット

1.資金が少なくても実行できる
株式移転では、買収の対価を「親会社となる新設会社の株式」で支払うことができます。そのため、買収のために多額の資金調達をする必要がありません。

2.強制的に全株式を入手できる
株式を譲渡してもらうためには、本来は各株主との交渉が必要です。しかし、株式移転は両社の株主総会での特別決議で有効に成立します。決議されれば、反対していた少数株主の株式を強制的に買い上げる手続きが可能となります。

3.共同株式移転でもPMIが比較的簡単
合併などと異なり、株式移転で買収される会社は、それぞれが完全子会社として存続します。企業文化に差がある会社同士が一体になるわけではないため、比較的PMIを進めやすいと言えます。

買い手のデメリット

1.手続き、規制が複雑
株式移転を進めるためには複雑な手続きを踏まなければなりません。また、適格要件を満たしていない場合(後述)には、株式の譲渡損益に課税されるなど、税制上の規制もあります。

2.共同株式移転では株主構成が変わる
複数の会社が完全子会社となる共同株式移転では、子会社の全株主が、新設された親会社の株主となります。そのため、株式移転前と株主構成が変わり、経営権の強さにも影響を与える可能性があるでしょう。

株式移転の手続きの流れ

株式移転の手続きは、簡単にまとめると次のような流れで進められます。

1.株式移転計画書の作成
共同株式移転の場合は、どのような統合プランにするのかを詳細に打ち合わせすることが大切です。方針が決まり次第、株式移転計画書を作成して、取締役会の決議をします。その後、法律に定められている事前開示書類を備え置きます。

2.株主総会の特別決議・反対株主の株式買取
株式移転を実行するか、両社の株主総会の特別決議に諮ります。議決権を持つ株主の過半数が参加し、3分の2以上の賛成で可決されます。また、反対株主は株式を会社に買取請求できる権利があるため、その対応が必要です。

3.債権者保護手続き
「完全親会社が完全子会社の新株予約権付社債を承継した場合」のみ、債権者保護手続きが必要です。

4.株式移転の効力発生後、登記などの手続き
株式移転は、新設する親会社の設立日に効果が生じます。親会社の設立登記をし、それに合わせて、子会社となる側の登記手続き等も行いましょう。また、親会社・子会社双方で、事後開示書類を備え置きます。

株式移転を行う際の注意点

前述の通り、株式移転は税務上・法務上複雑な手続きで進められます。中でも、特に注意しておきたいのが、既存株主の税金に影響を与える「適格要件を満たしているか」です。

「親会社が子会社の全株式を保有する」「子会社株式の譲渡対価として親会社の株式を交付する」等の条件を満たしていれば、株式移転によって既存株主に課税されることはありません。しかし、親子の支配関係・対価の支払い方法・事業継続の仕方などによっては、株式移転によって、既存株主の譲渡所得に対して課税される場合があります。

おわりに

株式移転は、新会社を設立して持株会社化する再編などを、手持ちの資金が少なくても実行できる手法です。しかし、適格要件をはじめ、会社法等で詳細にルールが定められているものでもあります。法律や税務についての深い知識をもっていないと、トラブルにもつながりかねません。専門家のアドバイスを得ながら適切に進めていくことが大切です。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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