新設分割を行うメリットとは?注意すべきデメリットも解説

M&Aの手法

2021.9.163 years前

新設分割を行うメリットとは? 注意すべきデメリットも解説

新設分割は、会社の事業を新設した会社に譲渡するM&A手法です。グループ外の会社と新設分割するケースもありますが、持株会社化やグループ内の事業再編などにも使われます。一定の要件を満たせば税負担がなくなるなどのメリットもありますが、制度が複雑な点にも注意が必要です。本記事では、新設分割について簡単にまとめました。

新設分割とは

新設分割とは会社分割の一種で、会社の事業を新しく設立した会社に権利・義務ごと譲渡する手法です。譲渡にあたっての対価の支払いは、現金だけでなく株式の交付で行うケースもあります。

本記事では、新設分割における売り手側を「分割会社」、買い手側を「新設会社」として説明していきます。

吸収分割との違い

会社分割には新設分割と吸収分割がありますが、吸収分割は、引き継ぐ会社が既存の会社の場合です。既存の会社に事業を引き継ぐ場合に用いられる方法ですが、新設分割では新設した会社に事業を引き継ぎます。

2種類の吸収分割の方法

新設分割は、さらに2種類に分けることができます。その分類基準は、譲渡した事業の対価を誰に対して支払うかです。

新設分社型分割

譲渡対価を分割会社に支払うものが「新設分社型分割」です。「物的新設分割」と呼ぶ場合もあります。対価の支払いが株式で行われた場合、分割会社が新設会社の株式を保有することになるため、「分割会社が親会社、新設会社が子会社」という関係になります。

新設分割型分割

譲渡対価を分割会社の株主に支払うものは、「新設分割型分割」と呼ばれます。「人的新設分割」と呼ぶ場合もあります。分割会社の株主が、事業の切り出しによって新設会社の株主にもなり、株式が分割されたような図式になるため、「分割型」と呼ばれます。

会社の新設分割のイメージ

新設分割を行うメリット

新設分割を行うメリットを3つ説明します。

1.契約等の引継ぎがしやすい
新設分割では、事業譲渡と異なり、事業の資産や契約等の権利・義務関係が包括的に引き継がれます。そのため、新設会社が、取引先や従業員との契約を個別に結びなおす必要はありません。また、事業に必要な許認可等も引き継がれます。

2.適格要件を満たせば、資産の含み益に課税されない
不動産や有価証券等を譲渡する場合、取得時よりも高い価格で売却すると利益が発生します。新設分割などのM&Aでも、利益が発生した場合には課税対象となります。

ただ、新設分割を含む会社分割では、所定の要件を満たす場合、取得時より高い価格になって含み益のある資産を譲渡しても課税対象となりません。

分割会社と新設会社の間に支配関係がある場合、資産の含み益に課税されない「適格分割」とされる要件は次の通りです。

分割会社と新設会社の関係 適格分割に必要な要件
完全支配関係(100%子会社) ・対価の支払いが株式等のみ
支配関係(50%超の株式を保有) ・対価の支払いが株式等のみ

・分割事業の主要な資産・負債が移転している

・分割事業の従業者を80%以上引き継ぐ

・分割事業が新設会社で引き続き行われる

グループ外の会社との共同事業やスピンオフのための新設分割の場合は、上記のものに加えて、さらに多くの要件を満たさなければなりません。

3.資本金等を引き継ぐことができる
分割会社の純資産のうち、分割事業の株主資本に相当する範囲内で、資本金・資本準備金・資本剰余金を振り分けることができます。

新設分割で注意すべきデメリット

一方で、新設分割には次のようなデメリットもあります。

1.税務が非常に複雑
メリットの2で紹介した非課税となる適格要件の判定条件が細かく定められており、税務上の取り扱いが複雑です。付き合いのある税理士や会計士でも、M&A等に詳しくなければ、正確な判断ができないこともあるでしょう。

2.新設会社が非上場の場合、株式の換金が困難になる
これは、分割会社が上場企業で「新設分割型分割」が行われるケースのデメリットです。上場企業の株式は証券取引所で自由に売買できますが、新設会社が非上場だと、新設会社の株式を入手しても簡単に換金することができません。

この場合、分割会社では分割事業に相当する収益力や純資産が減少するため、株価が下落することが想定されます。分割会社の株価が下がり、その分を非上場株式で受け取ることに抵抗のある株主は多いでしょう。

新設分割が行われるケース

新設分割が行われるケースとして、グループ会社で行われる例を紹介します。

新設分社型分割が行われるケース
一部の事業を切り出し、新設会社を100%子会社とすることで、事業の子会社化が可能です。また、全部の事業を、事業ごとに新設分社型分割をすれば、分割会社を持株会社化することができます。

新設分割型分割が行われるケース
グループ会社で新設分割型分割を行うと、分割会社の株主が新設会社の株主にもなります。そのため、グループ会社の再編を行う場合にも用いられます。

新設分割の流れ・進め方

新設分割は下記のような流れで進められます。

1.分割会社の取締役会での決議
分割会社の取締役会で、新設分割計画書の承認や株主総会開催について決議します。

2.新設分割計画書の事前開示
新設分割計画書などの書類を、新設会社設立後6か月が経過するまで、本店に備えおきます。

3.分割会社の株主総会での特別決議、反対株主の株式買い取り
分割会社の株主総会を開催し、新設分割ついて承認を取ります。新設分割についての決議は特別決議にあたるため、承認にあたっては「議決権ベースで過半数の株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要です。

新設分割が承認された場合でも、反対株主がいる場合には株式の買取請求を受け付けることを通知し、必要に応じて株式を買い取ります。

4.債権者保護手続き
異議を主張できる債権者(※)がいる場合、官報公告や個別催告によって、異議申立てを受け付けることを通知します。
※新設分割によって債権者としての権利に影響がある者

5.新設会社の設立
新設会社の設立をし、分割会社の変更登記を同時に行います。また、この日から6か月間、新設分割に関する書面等を分割会社・新設会社の両社に備えおきます。

おわりに

新設分割は、グループ会社内での子会社化・持株会社化、グループ再編、他企業との共同事業などに使われることが多い手法です。税務上複雑な側面はありますが、適格要件を満たせば、含み益にかかる税負担なく進めることができます。

ただ、税務上の適格要件等、複雑な制度でもあるため、専門家にアドバイスを求めながら適切に進めることが望ましいでしょう。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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