吸収分割を行う目的とは?新設分割との違いや進め方を解説

M&Aの手法

2021.9.133 years前

吸収分割を行う目的とは?新設分割との違いや進め方を解説

吸収分割はM&A手法の1つであり、会社の事業を既存の別会社に包括的に引き継ぐことができます。新設分割や事業譲渡とは少し異なる手法で、グループ事業の再編や経営統合などにも用いられます。吸収分割の特徴や他の手段との違いと、そのメリット・デメリットから考えられる活用方法について解説します。

吸収分割とは?

吸収分割とは会社分割の一種であり、会社の事業を切り出して、既存の別会社に権利・義務まで包括的に承継させるM&A手法です。譲渡対価の支払いは、現金でも株式の交付でも構いません。

本記事では、事業を切り出す会社を「分割会社」、その事業を吸収する会社を「承継会社」として解説します。

新設分割との違い

会社分割の方法には、吸収分割以外に新設分割があります。新設分割も、分割会社から切り出した事業を、権利・義務ごと承継するものですが、違いは承継会社です。吸収分割では既存の会社が承継しますが、新設分割では分割のために新しく設立した会社が事業を引き継ぎます。

事業譲渡との違い

事業を切り出して別会社に譲渡するという意味では、事業譲渡ともよく似ています。ただ、事業譲渡では、事業(=営業権)が移転するだけで、権利・義務までは承継されません。そのため、吸収分割では承継会社が従業員や取引先との契約を締結しなおす必要がないのに対し、事業譲渡では個別の同意が必要です。

2種類の吸収分割方法

吸収分割は、切り出した事業の譲渡対価を誰が受け取るかで、「吸収分社型分割」と「吸収分割型分割」の2種類に分けられます。

譲渡対価は、吸収分社型分割では「分割会社」に支払われ、吸収分割型分割では「分割会社の株主」に支払われます。なお、吸収分割型分割では、分割会社の株主に承継会社の株式を交付するのが一般的です。

吸収分割を行うメリット

吸収分割のメリットには、主に次の2点が挙げられます。

1.一部事業を包括的に切り出すことができる

吸収分割は一部事業だけを切り出すことができるため、分割会社は必要な事業を残すことができ、承継会社は必要な部分だけを引き継ぐことが可能です。

また、承継は権利・義務まで包括的に行われるため、従業員や取引先との契約や事業に必要な許認可申請などを改めて行う必要がありません。経営統合や事業再編をスピーディーに進めることができる手法です。

2.株式交付での支払いが可能

譲渡対価を株式の交付によって支払うことも可能です。承継会社にとっては、M&Aのために多額の資金調達をせずに、必要な事業を手に入れることができます。

吸収分割で注意すべきこと

一方で、吸収分割にあたって注意すべきことには、主に次の2点が挙げられます。

1.偶発債務・簿外債務リスクがある

吸収分割は、権利・義務を包括的に引き継ぐことがメリットですが、それがデメリットを引き起こすこともあります。精緻にデューデリジェンスができていないために、吸収分割完了後に、想定外の偶発債務や簿外債務が発覚することがあります。

そこまで想定した契約ができていれば、表明保証保険や損害賠償で対応できますが、それはM&Aの本来の目的ではありません。そういったトラブルを避けられるに越したことはありませんから、デューデリジェンスを慎重かつ詳細に進めることが大切です。

2.(株式交付する承継会社は)株主構成が変わる

譲渡対価として株式を交付した場合、承継会社の株主構成が変化します。

吸収分社型分割では分割会社が株主となり、吸収分割型分割では分割会社の株主が承継会社の株主にもなります。吸収分社型分割の場合は特に、分割会社が大株主になり、承継会社の経営に影響力を持つようになる可能性もあるでしょう。事前に、吸収分割後の株主構成まで確認しておくことが重要です。

吸収分割が行われるケース

M&Aの手段として吸収分割が選ばれるのには、次のようなケースがあります。

1.包括的な事業譲渡

吸収分割は、より包括的な事業譲渡ができる手法とも言えるでしょう。事業を譲り渡す際に、個別契約や許認可申請が大変な場合、吸収分割を活用することで、権利・義務まで包括的に譲渡できます。

2.グループの事業再編

グループ会社内で吸収分割を使えば、特定事業を管轄する会社を変えることができるため、事業再編ができます。100%子会社同士の吸収分割であれば、対価を分割会社の株主が受け取る「吸収分割型分割」を活用すれば、支払いも受け取りも親会社となるため、対価の支払いがない「無対価会社分割」とすることも可能です。

3.経営統合

他社の事業と統合させる手段としても活用されます。例えば、ある会社の100%子会社を承継会社として吸収分割型分割を活用すれば、承継会社の株主は、承継会社の親会社と分割会社となり、共同出資で会社を立ち上げたのと同等の効果が生まれます。

吸収分割後の会社のイメージ

吸収分割の流れ・進め方

吸収分割の流れは、下記の通りです。

1.吸収分割契約の締結
分割会社と承継会社との間で、吸収分割契約書を取り交わします。その際には、各社で取締役会の承認が必要です。

2.労働者保護手続き
従業員に吸収分割を行うことを説明します。

3.株主総会での承認・反対株主の株式買い取り
各社とも株主総会の特別決議で、吸収分割を進める承認を得ます。承認となった場合、反対した株主からの株式買取請求を受け付け、買い取りを進めます。

4.債権者保護手続き
吸収分割などの会社分割では、取引先との契約が引き継がれるため、債権者に不利益が生じないよう債権者保護手続きが必要です。

5.吸収合併の実行、登記
吸収分割をする日以降、必要な登記手続きを行い、事業の統合を進めます。

おわりに

吸収分割は、会社の事業を包括的に引き継ぐことができるM&A手法です。新設分割や事業譲渡と似たものですが、少しずつ違いがあり、吸収分割が向いているケースとそうでないケースがあります。自社の目的と照らし合わせ、専門家のアドバイスを参考にしながら、どのようなM&A手法を選択するかを検討しましょう。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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